ルーム・トゥ・リード・ジャパン事務局長 松丸 佳穂様

ルーム・トゥ・リードへの支援を通じ、 地域のみならず世界を視野に入れた社会貢献を目指す

特定非営利活動法人ルーム・トゥ・リード・ジャパンに弊社社員がボランティアとして参加したことがきっかけとなり、CSR活動に力を入れ始めたテル・コーポレーション。2016年12月の寄付月間キャンペーン時には、会社としてルーム・トゥ・リードに寄付いたしました。
2017年の対談以来、コロナ禍を経てルーム・トゥ・リードではどんな変化があったのか、弊社からの寄付はどのように活用されたのかなどを、事務局長の松丸佳穂様を再びお迎えし、CSR活動について学びたいという弊社新入社員とともにお話を伺いました。

ルーム・トゥ・リードとは

ルーム・トゥ・リードは、「子どもの教育が世界を変える」との信念に基づき2000年に設立され、非識字やジェンダーによる不平等のない世界を実現するために活動しています。歴史的に低所得地域に住む子ども達が識字能力と読書習慣を身につけ、少女達が中等教育を修了し、人生の重要な決断をするためのスキルを身につけられるよう支援することで、この目標を達成しようとしています。政府やパートナー団体とも協力し、大きなスケールで子ども達にインパクトをもたらしています。リモートでの学習支援も加わり、現在までに、21カ国、49,000以上のコミュニティで3,200万人以上の子どもを支援し、2025年までに4,000万人の支援を目標としています。

─新型コロナウイルス感染症の流行によって、ルーム・トゥ・リードにはどのような変化があったのでしょうか?─

学校内から家庭内学習へ。リモートでの学習支援に迅速にシフト

2020年、世界規模での新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うロックダウンや学校閉鎖は国際的に大きなインパクトを与えました。戦時中でも、全世界で学校が一斉閉鎖になったことはなく、初めての事態に直面したのです。

ルーム・トゥ・リードでは、識字教育と女子教育の2つの活動に力を入れていますが、プログラムは学校内で行われていました。しかし、この予期せぬ出来事によって、学校は閉鎖。多くの子ども達は教育現場から取り残されることとなりました。

特に少女達は、コロナ前でも、小学校までは行けるけれど、中学、高校と進学するにつれて中退を余儀なくされるケースが多い傾向にありました。そのため、いったん学校が閉鎖してしまうと、二度と教育現場に戻ってくることはなく、復学はこれまで以上に困難になることを懸念しました。2021年に、ユニセフも「パンデミックの結果として、2030年までに新たに1,000万人の少女達の児童婚が増加する」という調査データを発表しましたが、私達は当初からその危機感を募らせており、自宅にいても子ども達が教育を受けられるよう、リモートでの学習支援に迅速にシフトしました。ルーム・トゥ・リードの将来的なビジョンのひとつとして、リモートでの学習支援も計画に入っていましたが、まさかこんなに前倒しになるとは思ってもいませんでした。

保護者も巻き込んで、ラジオやテレビ、携帯電話など、アクセス可能な手段を駆使してプログラムを継続

リモートでの学習支援に切り替えたものの、各家庭の事情は実にさまざまです。教育に協力的な親もいれば、そうでない親もいます。また、読み書きができない親もいます。そのような環境で小学校低学年の子ども達に「自習しましょう」と呼びかけるだけでは、たとえ親に手伝ってもらったとしても難しい話でした。
私達が活動を行っている地域は日本のようにネット環境が整っていないため、保護者が携帯電話を持っている場合は、彼らが子ども達を指導しやすいようにルーム・トゥ・リードからテキストメッセージや学習動画を送ったり、また、オリジナルの読み書きのコンテンツを作ってラジオやテレビを通じて、保護者および子ども向けに教育番組を放映したり、教材の現物配布を行うなど、できることからスタートしました。また、ネット環境がある家庭や学校関係者には、オンライン上の無料デジタルライブラリー「リテラシー・クラウド*」を無料で公開紹介し、読書習慣の継続を促しました。
例えば、ネパールでは、読書好きの小学生の少女が読み聞かせに参加して、ラジオ放送に協力をしたこともありました。また、各国で、女子教育プログラム卒業生の少女達が、ラジオやテレビ、ソーシャルメディアを通して、「中退しないで!」「勉強を続けることはとても大事!」ということを、自身の経験から自主的に呼びかけたこともありました。ベトナムでは、卒業生達が本を出版し、将来世代の少女達にエールを送るなど、サポートの輪が広がったのです。

*無料のデジタルライブラリー。30言語、2,000タイトル以上の本にアクセスできる

学校再開後も、中退の危機にあった少女達の進級率は97%に!

ルーム・トゥ・リードが活動を行っている地域の事務所にいる現地職員は、100%地元で雇用されているため、現地の言葉や文化に精通しています。地域コミュニティの当事者が率先してプログラムを構築し、提供しているのです。その一環として、地域の女性をソーシャルモビライザー※として採用、育成しています。彼女達は、少女達のメンターとして一人ひとりと直接つながっているため、コロナ禍でも、リモートでのメンタリングセッションやライフスキル教育を継続することで、サポートを行ってきました。学校再開後、2022年末時点でのプログラム参加者の少女達の進級率はなんと97%。また、プログラム修了生のうち70%以上が高等教育に進むという結果になりました。これは、草の根支援が功を奏したのだと大変喜ばしく思っています。

※プログラムに参加している少女達のロールモデル、助言者、擁護者として行動する女性

─ 弊社が行った寄付で、ルーム・トゥ・リードの活動や子ども達にどんなインパクトを与えられたのでしょうか?─

いただいたご寄付で少女2人を7年間にわたりサポート。人生を変えるきっかけに

ルーム・トゥ・リードの活動にご賛同いただき、多大な寄付を本当にありがとうございました。テル・コーポレーション様からの寄付によって、子ども達に教育という生涯のギフトを贈ることができました。
ルーム・トゥ・リードの識字教育プログラムは、5,000円あれば1年間、小学校低学年の子どもに対して、読み書き能力や読書習慣の育成が可能です。35,000円あれば、少女が1年間学校に通い、物資面だけでなく精神面のサポートやライフスキル教育を通じて、自分自身の決断で人生を切り開いていく能力を培う女子教育プログラムを提供できます※1。
ライフスキルというのは、文字通り「生きる力を培う」ための教育で、中学校1年生から高校3年生までの最大7年間、自分自身を知ることからスタートして、共感力、批判的思考、自己肯定感など、少女達が十分な情報を得た上で意思決定するために必要な能力を学びます。日常生活で活用することで、ジェンダーバイアスや勉強時間の確保など、日々直面する様々な問題に対処することができるようになります。高学年になるにつれて、テーマもキャリアや金融教育、気候変動など、社会に出ていくための準備を行います。
テル・コーポレーション様からいただいた寄付金50万円は、2人の少女が高校を卒業するまで、7年間に渡りサポートすることに使わせていただきました。
女子教育の欠如は3,360兆円もの経済損失につながるともいわれています※2。貴重なご支援によって、少女達はこのプログラムを通じて人生が変わり、社会に対しても影響を与え、彼女達が生み育てるであろう子どもや家族に対しても大きな変化となります。寄付金額以上のインパクトをもたらすことができました。心より感謝を申し上げたいと思います。

※1:現在は円安の関係で、プログラム価格が上昇しています

※2:2018年世界銀行調べ

今もなお厳しい環境に置かれる子ども達を一人でも多くサポートしていきたい

ルーム・トゥ・リードのプログラムに出会ったことで、その地域で初めて高校を卒業し、大学に進学したという少女もいます。しかし、世界では今でも9,800万人以上の思春期の少女が学校に通っていません。教育を受けるよりも結婚して欲しい、働いて欲しい、という文化的偏見や社会的圧力がまだまだ根強く残っていたり、特にコロナや戦争、自然災害などが起きた際に、少女達を取り巻く環境はさらに厳しく、非常に不利な立場に置かれることになります。

児童婚だけでなく、バングラデシュなどの国では誘拐婚という風習がまだ残っていて、ある日突然、何者かに連れ去られて結婚させられてしまうケースもあります。私達の想像し得ないことがまだまだ行われている地域があるのです。

また、コロナを経て、学校が再開した地域でも支援が必要となっています。例えばインドでは、学校再開後、自宅学習が続いたために小学3年生の学力低下が顕著だったことから、学力を取り戻すためにも集中して学校の先生、生徒達のサポートを行う必要があります。

私達は、一人でも多くの子ども達が教育現場から取り残されることがないよう、これからもサポートを継続して参ります。

─今後、どのような活動を目指していくのかをお聞かせください─

目標は、2025年までに4,000万人の子ども達の人生に変化をもたらすこと

ルーム・トゥ・リードは 2025年までに、4,000万人の子ども達に教育機会を提供することを目標にしています。私達主導でプログラムを展開するだけではなく、20年以上にわたる活動によって、識字そして女子教育の分野において、これまで培ってきた専門知識やリソース、支援モデルをほかのパートナー団体に技術支援を行ったり、現地政府の教育システムに統合していく取り組みもすでに始まっています。これにより、より多くの子ども達に、スピードとスケール感、そして継続性も大事にしながらサポートを続けることができます。

新映画プロジェクト「She Creates Change」トライベッカ映画祭2023トライベッカX賞の公式セレクションに選出

今年2023年4月に、ルーム・トゥ・リードの女子教育プログラムを受けた12人の少女が登場する電子書籍「少女達が未来を変えていく(英タイトル:She Creates Change)」の日本語版を発行、無料で公開しました。この書籍には、女子教育プログラムの学びを生かし、性別や環境の固定観念にとらわれることなく困難を乗り越え、試練に立ち向かう少女達の物語が収められています。この書籍が世界中に広まって子ども達の未来のお手本になるとともに、子ども達の可能性を広げる契機となることを目指しています。

また今年2023年10月には、この書籍版から6名の少女をアニメーションと実写で映像化した映画版を公開する予定です。こちらは、なんとニューヨークで毎年開催される世界的に有名なトライベッカ映画祭においても、公式セレクションに選ばれました!

この他にも、ラジオやポッドキャスト等、少女達が実際に直面した困難と、未来を変えるためにとった行動と勇気の物語をあらゆる媒体で展開していこうと計画しています。それを世界中からアクセスできるようにして、ルーム・トゥ・リードの活動が届かない世界中の4億3200万人以上の少女達にも、ライフスキルを始めとした女子教育プログラムの教材として、お届けできればと思っています。

インタビューを終えて

低所得コミュニティの子ども達や差別を受けている子ども達に、教育というチャンスを提供し、「子どもの可能性を広げ世界を変えていきたい」と熱く語ってくださった松丸様。その実現に向け、休むことなく走り続けるルーム・トゥ・リードのパワフルな活動に、私達は強く胸を打たれました。

弊社としても、一人でも多くの子どもの明るい未来を願い、より良い世界づくりに貢献できるよう、今後も可能な限り支援を続けていく方針です。

松丸 佳穂(まつまる かほ)

特定非営利活動法人ルーム・トゥ・リード・ジャパン事務局長。早稲田大学第一文学部卒業後、リクルート入社。広報、結婚情報誌の編集・企画を担当。
世界文化社・社長室を経て、現職。ルーマニア、ロシアなど海外で育ったことから、読書や教育の重要性を身をもって体験。ビジネスと同じようにスケールとスピード感をもって途上国に教育支援をするルーム・トゥ・リードの活動に深く共感し、2010年、ルーム・トゥ・リード・ジャパンを立ち上げ、事務局長に就任。趣味はフィギュアスケート観戦(浅田真央さん、羽生結弦さんの大ファン)。