認定NPO法人PIECES 代表理事、小澤いぶき様。弊社代表で選考委員長、浅井輝彦よりトロフィーを贈呈させていただきました。
「社会にある不当な排除構造を、寛容な構造にシフトしていくことが私のライフミッション」
2018年に実施いたしました第2回社会起業家助成プログラムでは、「子どもの孤立」という社会問題解決に取り組まれている認定NPO法人PIECES(ピーシーズ)様(以下、PIECES)をご支援させていただきました。
今回は、PIECESの事務所にお邪魔し、弊社からのトロフィーの贈呈、そして、同NPOの代表理事、小澤いぶき(おざわいぶき)様に、「子どもの孤立という社会課題」について、ならびに「団体の活動内容」、そして「立ち上げからこれまでの軌跡」についてインタビューさせていただきました。
小澤 いぶき(おざわ いぶき)
- 認定NPO法人代表理事/ Founder
- 東京大学医学系研究科 客員研究員
- 児童精神科医
精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会う。子ども達との出会いを通して、どんな子どもたちにも権利と尊厳がある社会を目指し、子どもが育つ環境に優しさが生まれる生態系の必要性を感じ、2013年よりPIECESの前身となるDICを立ち上げ生態系づくりを行ってきた。
私たちがしているのは「子どもの孤立」をなくすために「子どもと寄り添う優しい大人」を増やしていく活動です
── 小澤さん、本日はよろしくお願いいたします。
はい、よろしくお願いいたします。
── まず、最初にPIECESが解決されようとしている「子どもの孤立」という社会課題について聞かせてください。「子どもの孤立」とはどのようなものなのでしょうか?
「社会的な孤立」というのは、物理的に同じ空間に人がいたり、関わりを持っている人がいても起きる状態です。人がいても、常に緊張があったり、自分の願いや感情を伝えることが抑圧されていたりするなど、安心できる関係ではない状態。そのような状態が続くと、自分の感情に気づきづらくなったり、誰かに頼ることが難しくなったりすることがあります。例えば、困窮していたり、虐待がある中で、学校に行かない選択をするなど、子どもが、様々な形で「助けて」や、「困ってる」、のサインを伝えてくれていることがあります。ただ、周りの大人がサインに気づかなければ、「頑張ってあげた声が届かない」、「頼ったけれど取り合ってもらえなかった」そのような体験が積み重なることで、他者や社会への信頼が奪われてしまうことがあります。
隣に人がいても起こっている孤立はとても目に見えづらいからこそ、周りがその声を見逃したり、なかったことにしないことはとても大切です。そして、何か困難が起こっているときに、孤立しているかもしれないという想像力を大人が持つこともとても大切です。その状況が見えづらいだけに、困難な状態がわかりにくいのですが、相対的な貧困に陥っている子どもは、実は日本では、現在7人に1人と言われていて、また、ひとり親家庭なると2人に1人と言われているのです。
── “見えづらい”というところから、なかなか一般に社会課題として認識されにくいところかもしれませんね。
そうですね。孤立は、頼っていいと思える、頼りあえる関係性自体がない状態の時に起こりえます。そして、頼るという行為は、実は簡単なことではありません。私たちは、様々な制度だけでなく、様々な人との関わりの中で、誰かに頼ったり、誰かに頼られたり、感情を共有したり、新しい世界とつながったりしながら生きています。例えば、困ったことがあったとき、嬉しいことがあったとき、相談したい人や、感情を共有したい人の顔って思い浮かびますか?
私たちが、誰かに頼るとき、
- ●何に困っているかなんとなくわかっている
- ●頼りたい人の顔が思い浮かぶ
- ●主体的に相談しに行く
という3つのハードルを超えています。逆に言うと、
- ●何に困っているか分からないけれどしんどいとき
- ●安心できる頼れる環境がないとき
- ●意欲が奪われているとき
頼るということはとても難しくなります。
孤立を防ぎ、困難なときに頼りあえるには、困難な状況になる前に、自分のことを話しても大丈夫、頼っても大丈夫だと思える環境が必要です。
── 身近なところで常に気持ちを共有できる相手がいるのが大切ということですね。事態の発見を困難にしている要素は何か他にあるのでしょうか?
このような社会的な問題は、一般的には「申請主義(申請して初めて、公的な機関が動く)」ですので、認識したり、主体的に申請できないと、なかなか問題の発見すら難しくなってしまうことがあり、それがより“発見”を困難にしているのだと私たちは思っています。
── PIECESの活動はそのような課題を解決するためのものなのでしょうか?
はい。このような背景から、子どもたちの日常に、頼りあえる優しさがあふれていること、そして、その優しさを市民が生み出していき、子どもたちの育つ社
子どもの孤立を防ぐためのキーパーソン「子どもと寄り添う優しい大人、コミュニティユースワーカー」とは?
── 次はPIECESさんの活動内容を教えてください。具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
PIECESの行なっている活動は主に3つになります。
- 1. 人の育成(子どもと寄り添う優しい大人の育成)
- 2. 子ども支援プラットフォーム
- 3. 社会提案(子どもの育つ社会がどうであったらいいかを問い、考えながら、実際の子どもたちの声から見えてきたことを、伝えていく活動)
今日は、今までの活動で行ってきた「人の育成」。みなさんに一番興味を持っていただける「コミュニティユースワーカー」についてお話させてください。
── よろしくお願いします。「コミュニティユースワーカー」とはどのようなものなのでしょうか?
私たちPIECESは、子どもたちに優しさにあふれた環境をつくるため、多種多様な専門家とともに、子どもたちの声を大切にし、様々な人とのつながりの中で「子どもと寄り添う優しい大人」を「コミュニティユースワーカー」と名付け、育成してきました。卒業生はそれぞれの得意や関心を活かし、子どもたちと寄り添う活動を展開しています。
今まで育成してきた「コミュニティユースワーカー」とは、簡単に言うと、親でも学校の先生でも友達でもない、利害関係なく、隣にいながら、信頼を一緒につくっていく市民のことです。
まずは、頼れる大人として、身近な話題などで会話することから始まり、子どもたちをきちんと見られる大人を配置し、子どもを「社会的孤立」させないための存在です。
行政や地域の方と連携して、子どもたちの困難が複雑に積み重なる前に関わることももちろんですが、一人の人として、子どもと共に願いを形にしたり、様々な人や資源につなげ、子ども自身が自分で多様な人に頼ったり、つながっていける役割も担っています。
── なるほど、単なる相談役ではなく、“頼れる大人”というのが素敵ですね。例えば、コミュニティユースワーカーの活動では今までにどのようなストーリーがありましたか?
- ●ある男の子は、家庭環境が不安定な中、学校でもいじめられ「自分では生きている価値がないのではないか。」そんな風に思っていた時にコミュニティユースワーカーと出会いました。「初めて自分の話をこんなに聞いてもらえた。」と、少しずつ自信を取り戻していき、自分の物語をゲームにするプロジェクトに参加。「自分のことが大っ嫌いだったけど、少しずつ自分のことが好きになった。」そんな風に話すようになりました。
- ●ある女の子は、経済的に困窮している中、頑張って暮らしていました。家庭の中で喧嘩が絶えなかったといいます。初めて会った時は、学校になじめず「集団が苦手だ」と、落ち着かない表情で動き回っていました。大好きなロボット作りを経て、今では他の子にゲームのことを教えたり、ロボットを紙で作ったりと、好奇心がつきません。「今は楽しいから、会いたい人がいるから来ている」と教えてくれました。
コミュニティユースワーカーとの出会いで、子どもたちは少しずつ困ったことや、嬉しかったこと、嫌なことなど、感情や、願いを共有しはじめました。少しずつ心を開き、安心して誰かを信じられるようになっていったのです。自分を信頼してくれる大人との出会いを通して、子どもたちは様々な人に頼ることを知り、他の子に頼られ、多様なつながりの中で成長していきます。
── 社会とのつながりを持ったことで夢も持てるようになったのですね。
はい、本当にそう思います。私たち大人ももちろんそうですが、子どもたちも、表面に見えている言動があるとすると、見えないところに感情や願いというものがあります。子どもたちの言動の奥底には、「関わってほしい」「もっとちゃんと見てほしい」「信じてほしい」など、様々な願いがあります。
スキルももちろん大切です。ただ、その土台となるマインドセットがつくられていないと、自分の思い込みや価値観の上だけにスキルが乗っていくことになります。だからこそ、私たちは相手のことを勝手にジャッジせずに想像力を働かせるという、マインドセットを大切にしています。「マインドセットがあることでスキルが生きる」。私たちはそう考えます。
ですので、私自身、コミュニティユースワーカーを育成するときはスキルはもちろんですが、一番大切な「マインドセット(子どもと寄り添うあり方)」を育むことを重視しています。
「子どもと寄り添う優しい大人」を育成する事で、優しさのあふれる社会をつくる
── 子どもと寄り添う大人(コミュニティユースワーカー)は、子どもたちにとっては「ひとりぼっち」にならないために大切な存在なのですね。
はい、子どもたちにとっても大切な存在なのですが、実はプログラムを受講した大人自身も「自分の価値観や固定概念に気づいて、普段のコミュニケーションも変わった」と言ってくださる方が多いんです。ですので、「互いに学び合い、成長し合う関係」だと私は思っています。
── 子どもたちと関わることで、子どもと寄り添う大人(コミュニティユースワーカー)も成長できるのは素敵ですね。
はい、私たちは、子どもの生きる社会の文化をつくっているのは、子どもも含めた「市民一人ひとり」だと思っています。誰もが誰かに、何らかの影響を及ぼしている。だからこそ、相手がいることでお互いが変化したり、影響をうけ合うことを知り、振り返っていくことは大事だなと感じています。また、そのほかにも、子どもたちやコミュニティユースワーカーで立ち上がったプロジェクトもあるんです。
── 個人ではなく、コミュニティもできているのですね。どのようなプロジェクトなのでしょうか?
これまで多くのプロジェクトが立ち上がっているのですが、わかりやすいものとして「クリエイティブガレージ」とを紹介させてください。これはもともと、ゲーム好きな男の子とゲーム作りができるコミュニティユースワーカーが立ち上げたプロジェクトで、プログラミングを教わりながらゲーム作りが体験できるものです。現場では、子どもたちがその場でパソコンを操作を覚えるだけではなく、プロと一緒にゲーム作りの企画から一緒にゲーム作りを体験できるので、子どもたちだけではなく、大人も創造力を働かせながら活動しています。また、ゲーム作りの他にも、ドキュメンタリー作りなどモノづくりが盛んに行われています。
── 人と人とがつながるコミュニティができることで、子どもたちの世界がより広がっていくのがよいですね!
はい、コミュニティユースワーカーと子どもたちが自主的にプロジェクトを立ち上げることで、自然と子どもたちの周りに優しい間やつながりが生まれて、子どもの世界が広がり、その過程で、困難だったことがそうでもなくなる、孤立しにくくなっていたという営みが日常になるといいなと感じています。そして、うれしいことに、元々のきっかけとなったゲーム好きの男の子は、その後、特待生でクリエイターのスクールに入り、今では教える側になっています。
このようになってくると、コミュニティユースワーカーも子どもだんだん枠がなくなってくるので、理想的な状態だと私は思っています。
── 人と人がつながれる場(コミュニティ)ができる流れがもっと連鎖してほしいですよね。
はい、本当にそう思います。このモデルは、ちょうど水戸市でのセカンドリーグ茨城さんとの協働を皮切りに、各地域の文化に合わせながら広げていく予定です。そして、今後は子どもと寄り添う大人の育成はもちろんですが、このような仕組みづくりを支える活動(子どもに関わる人たちがお互い学び合い、エンパワメントし合うプラットフォーム(子ども支援プラットフォーム)をどんどん広げていけたらと思っております。
── PIECESさんの活動を通して「子どもたちが人を頼れる仕組み」がどんどん広がっていくのを感じます。最後に小澤さんの今後のビジョンを聞かせてください。
私だけでなく、PIECESとして「誰かを、何かを不当に排除するような社会構造を、寛容な構造にシフトしていくこと」がライフミッションです。子どもたちが自分の人生を諦めなくてすむ世界は、この社会をつくる私たち一人ひとりが、世界のことに関わる当事者であることを想像していく世界でもあると思うんです。私から、私たちへ。共に想像力を広げて、子どもたちが、「希望をもってよい」、「信頼してもよい」と思えるような社会を、子どもたちと一緒につくっていきたい、そう思います。
── 小澤さん、ありがとうございました。お話をうかがって、PIECESさんだけでなく協同する仲間を増やしてどんどん広がっていく、持続可能な社会のための持続可能な活動だと感じました。今後も活動を応援させてください!